GPUを吊す

2014年のMt.Gox破綻を機に仮想コインからは一切手を引いていたのですが、最近になって再び仮想コイン関連の記事が人気になっているので調べてみると、どうやら仮想コイン業界では3年前と同じくバブルになっているのを最近知りました。

ビットコインを筆頭とする高騰する仮想コインに引き寄せられ、仮想コインを採掘しようとする人が増えたようですが、2017年現在において個人採掘で採算は取れるのか、仮想コイン採掘の現状を調べてみることにしました。

採算性はあるが利益率は厳しい個人採掘

結論から言うと、「採算性はあるが利益率は厳しい。」という状態です。

3年前、2014年当時の採算性を改めて見たうえで比較してみると、採算性はかなり悪化しているのに、3年前とやっていることは同じという現状が見えてきました。

しかし、仮想コインを取り巻く環境は激変しており、3年前と比べて環境変化が高騰を招いていることは確かです。

そこで、今回の採算性を考えるうえで、3年前と現在の変化を調べながら、なぜその結論に達したのか説明をしていきたいと思います。

仮想コインバブル2014

BTCe

仮想コインは為替取引と同じように、取引によって価格が決まります。

2014年当時の仮想コインの主流は現在と同じビットコインで、当時、1BTCが10万円という値が付けられたこともありました。
※2013年に12万の値が出たこともあった

その取引所で有名だったのが、当時の関係者なら誰でも知っているMt.Goxでした。そう、Mt.Gox破綻事件の中心となった、今は無きMt.Goxです。

取引所全体のビットコインのうち70%がMt.Goxにあるといわれたほど大きな取引所でしたが、その後、Mt.Goxはビットコインの盗難により経営破綻し、ビットコインの信頼性が損なわれ、1BTCの価格は1万8千円まで急降下して仮想コインバブルははじけました。

これにより、仮想コイン業界全方位に冷や水を浴びせた結果となり、仮想コインに係わっていた多くの人が去っていったのが2014年の仮想コインバブルの結末でした。

当時、Mt.Gox破綻事件の直撃を受けた私は、仮想コインからは手を引いていたのですが、それでも仮想コインを信じて働きかけた人たちにより信頼性は再び回復し、法規制の整備も手伝って、多くの企業がサポートすることで仮想コインの相場は再び高騰することになりました。

もちろん、ディープウェブでの闇取引や、ランサムウェアの身代金、中国から不正な資産の持出しのためといった闇需要による要因もありますが、3年前よりははるかに綺麗な環境に置かれていることは確かです。

2014年の仮想コイン採掘事情

2014年の時点でビットコインは専用採掘機をデーターセンター規模で動かすのが主流となっており、個人での仮想コイン採掘は専用機でなんとか採算が合おうかという現状でした。

そのため、個人で仮想コインを採掘するユーザーの多くは、GPUを利用した採掘用PC(採掘専用機とは別物)を使用し、ビットコインとは別とライトコイン等といった代替コインを採掘し、取引所でビットコインに換えるといった方法がとられていました。

しかし、このライトコインも2017年現在、ビットコインの採掘と同じ道をたどっています。

仮想コインの採掘は、仮想コインが採掘により発見される度に難しくなる方法が主流のため、採掘者が増えることで初期はCPUで可能だったものが、中盤からGPUへと切り替わり、最後はASICやFPGAという採掘専用機でないと採算が合わないようになってきました。

結局の所、仮想コイン採掘とは採掘能力のぶつかり合いであり、軍備拡張競争よろしく、最終的に資本に物をいわせ、専用機をデーターセンター規模で稼働させるという方法でないと利益が出ないようになります。

激熱採掘PC

2014年当時のライトコインはGPUを用いた仮想コイン採掘で利益が出る時代でしたが、それでも、仮想コインの相場が上がる→採掘者が増える→採掘難易度が上がる→採掘による利益が減る→より効率の良い採掘機を買う→最初に戻るという繰り返しになってしまい、このサイクルに採掘専用機や業者がお金にものを言わせて参入すると、採掘難易度が急上昇して個人での採掘は採算がまったく合わず終焉を迎えます。

このような現状から、一部の仮想コイン採掘者の中には、採掘した仮想コインを寝かせておき、将来、仮想コインが高騰した時に大きな利益を出すことを狙ったユーザーがいました。

今となっては確かに正解でしたが、これから先、仮想コインの相場が高くなる保証はないですし、それをするぐらいなら、わざわざ手間と時間を掛けなくとも仮想コインを直接取引所で買い付けた方が早いといえます。

結局、そのような結論に達してトレードを初めた経緯があるのですが、結果は上記のとおり、ビットコインを預けていたMt.Goxの破綻という結末で終焉を迎えました。

バブルの時には決まってメディアが取り立てて騒ぎますが、既に美味しいところは持っていかれており、これから参入する人はババを引かされることになります。

仮想コインは、主流のビットコインですら数日で1割以上も相場の値が変動することもあるジェットコースターのような値動きなので、投資ではなく投機として考えるべきで、それはすなわち博打と変わりません。

遊びでやるなら止めはしませんが、真面目に投資をするのであれば、株や国債など利率は低いが安定しているものでポートフォリオを組むことをお勧めします。

再加熱する仮想コイン採掘

前置きが長くなりましたが、2017年現在の「仮想コインの個人採掘は採算性があるのか」という本題に入りたいと思います。

まず、採掘とは簡単に言うと、与えられたデータを解析することで、結果、コインを発見したら仮想コインが入手できるシステムになっています。

しかし、個人で採掘する場合、人気のある仮想コインだと1回の解析に使う時間が数ヶ月以上ということも当たり前で、解析できたとしても仮想コインが発見できなかったら、その時間は全て無駄になってしまいます。
※採掘は仮想コインの信頼性の担保になっているため、システム全体では無駄ではない

そのため、利益は少なくとも確実に仮想コインの採掘に応じた報酬がもらえる採掘プールを利用するのが個人採掘では主流となっており、採掘に貢献した割合(計算能力)に応じて仮想コインがもらえます。

今回は、この採掘プールによる仮想コイン採掘をした場合を想定し、採算性を検討してみます。

なお、他にもクラウドのように専用機をデーターセンターのように詰め込んだ設備の一部を時間いくらで借りる方法もあるのですが、個人採掘とはやや違うため今回は除外します。

採算性の確認は、理論値だけなら自動的に計算をしてくれるサイトがあり、今回はNiceHashで計算してみました。

GTX1070

このNiceHashでは、仮想コインの採掘に使用するハードを選択して、電気代を入力すると1日、1週間、1ヶ月、1年のスパンで採算性を確認できます。

計算に必要なのは使用するハードの選択と電気代の調整です。

採算性の結果

試しにGTX1070で仮想コインを採掘した場合の採算性を確認してみましたが、1日稼働し続けて211円の収入となり、電気代88円を差引き、利益は123円という結果が出てきました。
※1USD=111円で換算
※採掘専用機も登録してあるので試しに選択してみるとその性能が伺える

採算性はあるものの利益が少なく、利益を大きくしようとすると、高性能なGPUが搭載されたグラフィックボードを複数枚同時に稼働させることになりますが、仮想コインの相場下落や採掘難易度が上昇することで採算性は一気に悪化するため、実際は表示されているように安定して利益を出し続けることはできません。
※採掘はグラフィックボードへの負荷も大きく寿命が短くなることも計算する必要がある

仮想コインの相場が上がれば採掘するユーザーが増えて採掘難易度が上昇し、逆に相場が下がれば価値自体が下がるので採掘するユーザーが去って採掘難易度が下がっても採算性は低下するという絶妙なバランスとなっています。

3年前と大きく変わった点としては、採掘アルゴリズムの多様化に伴い、個人採掘で主流となっていたAMDのGPUだけでなく、NVIDIAのGPUも採算性が上がっていることがあげられます。

一部の仮想コインのみの採掘に特化して効率が高いAMDか、採算性は劣るが多数の仮想コインの採掘に対応するNVIDIAという選択になっていますが、長期間安定して採算が取れるのはNVIDIAのGPUになっているようです。

仮想コインは日々の値動きが激しく、採掘していた仮想コインが急落して一気に採算が合わなくなることは珍しくありません。

そのため、相場が高値になっている仮想コインに適時切替えながら採掘する必要がありますが、採掘に対応している仮想コインが少ないAMDのGPUはこの点が不利になります。

NiceHashによる計算では僅かながらですが採算性が認められましたが、これはあくまでも理論上での話で、実際に採掘してみないと結果は分らないこともあります。

ちょうど良く、手元にPCVRのために用意したNVIDIAのGPU GTX 1060を搭載したグラフィックボードが有るので、実際にこちらを用いて仮想コインの採掘をしてみることにしてみました。

実際に仮想コインを採掘してみた

採掘プールを利用した仮想コインの採掘は、ウォレットの作成に始まり、採掘プールの登録と設定、採掘用PCの設定という面倒な手順が必要になります。

加えて、ビットコインに交換したい場合は、交換所に仮想コインを送り込みトレードする必要があります。

便利なことに、現在ではウォレットの作成以外は全て自動で設定してくれるソフトがあり、採掘初心者の参入環境はかなり簡単になっています。もちろん、その分だけ採掘プールへの手数料は若干高めになっています。

そのソフトが「NiceHash Miner」です。

このNiceHash Minerは、搭載されているGPUに対して最も採算性が高くなる仮想コインを相場から自動的に選択し採掘してくれます。

しかも、1日ごとに相場を確認して自動的に採掘する仮想コインを切替えるという設計で、最終的に得た利益はビットコインに交換して指定したウォレットに手数料を引かれて振り込まれるという、まさに面倒なことは全て丸投げできる便利な採掘ソフトです。

ちなみに、どれだけ仮想コインが手に入るのか、試しに採掘するだけならウォレットは必要ありません。また、5分程度稼動させれば1日あたりの収益が出てくるので試掘にも便利です。

試掘

仮想コインを試しに採掘した結果、GTX 1060では1日稼働し続けて約127円の収益が出ることが分りました。
※採掘中は高負荷になるためPCが一時的に固まる可能性が高ある

これから電気代を引いた金額が利益ですから、GTX 1060が100Wとして1日の電気代は60円になるため、差引き67円が利益となりますが、実際は他のパーツや周辺機器の消費電力もあるため、これよりも更に利益は低くなります。
※電気代は1kWhあたり25円で算出
※1BTCの相場は288,725円の際に試掘

3年前の当時、合計1600Wの採掘専用PCで日に2000円程度の利益を出していましたが、Wあたりの採算性で比較すると、採算性は3年前の半分になっていました。

これは、より高価で高性能なGPUでも同じ傾向で、多くのユーザーが仮想コインの採掘に参入したことと、専用機が開発されて採掘に多数投入されていることが要因ではないかと予想されます。

このように、仮想コインの個人採掘はまだ利益が出ますが、この後待っているのは、採掘難易度の上昇による採算性の低下であり、利益を出すためにはさらに高性能なグラフィックボードに買い換えるというループに陥り、最終的に専用採掘機の投入と業者の参入で個人採掘は終わりを迎えます。

それだけでなく、仮想コイン全体の相場が下落すれば、採算性は採掘難易度とは関係なく落ち、あっと言う間に赤字に転落するため、長期間安定して利益を出し続けることは難しいのが仮想コインの個人採掘の現状です。

加えて、今回の調査で見えた新たな問題点として、まるで、仮想コインの採掘のために乱立しているかのようにみえる、採掘アルゴリズムの多様化はいずれ限界を迎え、業界全体への信頼性を低下させたアタリショックのようになる可能性すら孕んでいるように感じます。

まとめ

仮想コイン自体の可能性については、まだ十分にあると私自身考えていますが、仮想コインの採掘については、ゴールドラッシュやオイルラッシュと同じく、道具を売っている業者が儲かるようになっているだけです。

個人的には、ハードウェアが直接的な利益を生むことができるプロセスが楽しくて採掘に手を出した経緯がありますが、グラフィックボードを買ってまで採掘するのは個人的な経験からもお勧めはできません。

仮想コインは投機的な側面が強いものだけに、深入りすればするほど損失した際の被害も大きくなるため、手元に高性能なグラフィックボードがあるのであれば、試しに遊んでみる程度にしておくのが正解です。