Surface with Windows RT 32GB 米国版



タブレット勢の勢いに押されつづけているMicrosoftが対抗馬として海外で販売しているMicrosoftの肝いりタブレットSurfaceが日本でも近日発売されるとの話です。しかし、Surfaceを良く調べると、そこにはMicrosoftの焦りがちらほらと見えてきました。

今回はそんな「Microsoft」「Windows RT」「Surface」のキーワードについて掘り下げつつ、Surfaceから見えてきたMicrosoftの焦りに詳しく突っ込んでいきたいと思います。
Microsoftが発売するSurfaceには、Windows 8搭載モデルと共にWindows RT搭載モデルも用意されています。このWindows RTとはいったいどのようなOSなのか、その点から解説していきたいと思います。


●そもそもWindows RTとは何か?

Windows RTが従来のWIndows OSと決定的に違うのはx86 CPUではなくARM CPUのみをサポートした点にあります。


ARM POWERED


ARM CPUは現在主流のタブレット、スマートフォンでほぼ確実に搭載されているといっていいまでにシェアを確保しています。

なぜここまで浸透したのか?理由は簡単で、効率が良くバッテリーの持ちが良いためです。

ARM CPUは組み込み型コンピューター用のCPUとして開発されているため、小型で大きな電力消費を嫌うハードウェアに最適なCPUとなっています。

携帯ゲーム機、カーナビ、携帯電話、NAS、家電など、普段目にしないところで数多く採用されており、主にパソコンという世界とは違う世界で発展してきたCPUでした。

その後スマートフォンのご先祖様に当たるPDAに搭載され、AppleのiPhoneが爆発的にヒットし、スマートフォンやタブレットの今の流れができたのです。

気が付けばモバイル端末は皆ARM CPUを採用し、タブレットPCはノートPCのシェアまで食い込むまでに至りました。


ModernUI


Microsoftとしてはこの流れは見逃すことはできるわけがなく、Windows 8ではタブレットPCを使用することを前提とした設計でシェアを取り戻そうとしています。

しかし、問題がまだ残っています。Windows 8がサポートするCPUは従来のPCで採用されているx86 CPUのみのサポートとなっており、消費電力対効率がARMと比較して劣るため、稼働時間を延ばすためにはバッテリーの容量を増やす必要がありました。

バッテリー容量増加は重量増加とコストの増加を同時にもたらしてしまいます。そこで消費電力の割に高率の良いARM CPUの出番となるわけです。

電源があるところで使わることを前提とし設計されたx86 CPUと、電源確保が難しいことを前提として設計されたARM CPUでは、モバイル環境で使うにはどちらに利があるか誰もが分かることです。

Microsoftはx86 CPUを製造する半導体最大手のIntelと強い結びつきがあるにもかかわらず、このARM CPUをサポートするWindows RTという新しいOSを完成させました。

この、ARM CPUをサポートしたのがWindows RTと従来のWindows OSとの決定的な違いなのですが、これにより効率よくOSやアプリが稼働し、バッテリーの消費電力を抑えることができ長時間駆動が実現でき万事解決と思いきや落とし穴も存在してます。

実はWindows RTは従来のWindwosアプリケーションが使えません。驚くことかもしれませんが、プログラムはOSだけでなく、CPUにも対応させるための構築をしているため、x86 CPU環境で動くために最適されたアプリケーションはWindows RT上では動かすことができないのです。


Windowsストア


したがってWindows RTではプリインストールされたアプリとMicrosoftストアで公開されている、ARMに対応したWindowsストアアプリをインストールして使うことになります。

しかし、同じくWindowsストアアプリにアクセスできるWindows 8タブレット、ASUS VivoTab Smart ME400Cのレビューではアプリが少なく、まだまだ熟成には時間がかかるという評価となりました。

Windows8という橋渡し役を使うことでARMに対応したWindowsストアアプリの拡充を図る算段なのでしょうが、肝心のOSの出来が悪いと開発者に見向きもされなくなり、アプリの拡充も夢で終わってしまいます。

今後のアプリ開発者の動向こそがWindows RTの行く末を担っているといっても良い状態となりましたが、日本のアプリ開発者はどう思っているのでしょうか?その点が気になります。


●「Windowsの競合商品はWindows」が招いたWindows 8

Windows 8



Windows RTの要ともいえるWindowsストアアプリの拡充の鍵となるのがWindows 8です。

Windowsストアのアプリはx86 CPUで動作するWindows 8でも、ARM CPUで作動するWindows RTにも対応した両対応のアプリが公開されています。

これにより、アプリの開発者は従来のアプリケーションが作動するWindows 8という比較的ユーザーが多い環境に向けてアプリを開発すると同時に、新機軸のWindows RTでも動作させることができるアプリを同時に開発することもできます。

Windows RTでは従来のWindowsアプリケーションが動作しないため、アプリの拡充は急務となっています。ライバルであるiOSやAndroidでは60万以上ものアプリが公開されているという現状、追い上げるのはかなり難しいと感じます。

しかしアプリの拡充には、アプリが動くWindows 8自体がユーザーに求められる設計であることが重要です。どれだけアプリが優れていても、OSの出来が悪いとなればユーザーにも開発者にも見向きもされなくなります。

しかし、困ったことにWindowsがバージョンアップしていくごとに、使いづらくなってきていると感じることが多くなってきました。


Windows 2000



Windows OSの歴史を振り返ると、Windows 2000の段階ですでにWindowsは完成系にあったと感じます。

後のWindows XPはさらにGUIやパーソナル系の機能を拡充させWindows 2000を正当進化させたかたちとなりましたが、PC自体の価格もこなれてきましたし、なにより使いやすかったため今でもWindows XPは使われ続けています。

かれこれ2001年の発売から12年以上も経過しているのに、2014年までWindowsアップデートがサポートされ安心して使えるというのは、その完成度が認められたからでしょう。

しかし完成度が高いということはユーザーにとっては喜ばしいことでしたが、Microsoftには大変な問題を引き起こす原因になってきました。

完成度の高さ故、後のWindows OSが売れなくなりました。Windows VistaではOSが重たく低価格のPCではストレスにしかならないほど動作が遅く、設定を一つ変えるたびにUACによる確認を迫られるなどユーザーにとっては使いにくいOSでした。

結果Windows XPへのダウングレード権がついたPCが発売され、Windows VistaではなくあえてWindows XPを選ぶまでになったほどです。

その後のWindows 7ではWindows Vistaでの失敗を繰り返さないため、ユーザーとの連携を密にして開発を進めた結果、完成度の高いOSとなりました。


デスクトップ機能


しかし、Windows 8ではデスクトップPCを切り捨てタブレットPCに最適化させるという切り捨てとも捉えられる大胆な変化により、従来のデスクトップ環境で作業している人たちにとっては非常に不満の残る完成度となりました。

実際にWindows 8を搭載したタブレットPCの他、Windows 8を搭載したノートPCを触りましたが、従来のWindowsを使用していた人には操作が変わりすぎて分かりにくいものとなっています。

仕事で使わざるを得ない人にとっては特に問題で、また新しい操作や機能を覚えなくてはいけないという苦痛が待ち受けています。

ユーザーにとっては今までどおりに使えれば良いだけで、使いにくくなるものに対して対価を払おうとしません。しかし、Microsoft側からしてみれば、新しくOSを作り販売しないと収益が発生しないということから、必要でなくとも新しいOSを開発して収益を上げる必要があったのです。

さらに問題は、デスクトップPCとノートPCのシェアはWindows OSが独占的な立場にあり、Windows OSのライバルは自社のWindows OSという状態が長いあいだ続いていたため、ジレンマに陥りました

会社で営業をやっている人は分かると思いますが、自社の新製品を売る場合、前の製品と何が違うのかという点を消費者やバイヤーは求めてきます。

変更された点が従来の商品よりも優れ、なおかつ対価を払うだけの価値があると認められて初めて販売へと繋がります。

Windowsでこの状態を表すと、今のWindowsで満足しているのに、何故必要もない新しいOSを買わないといけないのか?というユーザーと、新しくOSを発売しないと収益が出ないMicrosoftという状態が市場で形成されているわけです。

役員は株主から収益を上げろと突き上げられ、結果、現場ではOSの発売が最優先となり、完成度は後回しされることも株式会社というシステム上なら十分に考えられます。

Windows Key



困ったことにPCを発売するメーカはMicrosoftがこのOSを使いなさいといえば、使わざるを得ないほどにMicrosoftの力は強く、結果新しいOSを搭載して発売し、これでMicrosoftは収益を上げることができるのですが、ここにユーザーの入る余地がまったくありません。

結果、Windows 8ではタブレットPC用としても中途半端で、デスクトップ用としてもやはり中途半端なOSができあがりました。

このようなOSに向けて、いったい誰がアプリを開発するでしょうか?もし私なら未来のあるAndroidやiOSに向けたアプリを出すでしょう。

こうして、Windows RTから見れば要ともいえるWindowsアプリストアの拡充は、頼みのWindows 8の完成度の問題によりこける可能性すら出てきました。


●多くの人がタブレットPCで満足する世界

Windows RTが登場したそもそもの発端はiPadやAndroidタブレットの登場により、Windows OSのシェアが奪われ始めたからですが、この流れを遡ればUMPC登場のころから見えていました。


Eee PC


UMPCといえば始まりはASUSが市場に突如投入したEeePCでした。ネットブックともいわれ、B5サイズの小型の筐体に7インチのモニター、必要最低限の装備で性能は低かったのですが価格は非常に安くヒット商品になりました。

私も発売当時購入して使っていましたが、インターネットとメールというライトユーザー向けの操作はそこそここなすので出張のお供に持っていっていました。

今ではEeePCといえばASUSの1ブランドとして認知されるほどまで成長したこの市場ですが、この裏には一般のユーザーは高価なノートPCではなく、性能はそこそこでインターネットとメールだけできれば良いというニーズが見えていました。


ipad



Appleがこの流れを読み込んでいたのか、インターネットとメールで満足する一般のユーザーを取り込めるiPadを発売して大人気になりました。

Windows PCと違い難しい設定や操作も必要なく、インターネットとメールができ持ち運びも簡単、起動も速くてUMPCの立場はタブレットPCの登場で奪われる形となりました。

モバイルの世界から思わぬ形でWindowsの強敵が現われ、その後GoogleによるAndroidタブレットの登場となり、iPad登場から僅か3年足らずの短い期間でタブレットPCが市場に溢れるようになりました。

iPadもAndroidタブレットも搭載されているのはWindowsOSとは違う各社独自のOSで、Windows OSで収益を上げているMicrosoftは僅かな期間で自社のシェアを奪われたのです。


Nokia Lumia 920 - Caledos Runner



ショッキングなことに同じくスマートフォンで展開しているWindowsPhoneはiOSとAndroidOSからシェアを奪い返せず、本国アメリカでのシェアは10%にも満たないという散々たる状況になっています。

WindowsPhoneについては、モバイル系OSのご先祖様のWindows CEやその発展系のPocket PCという長い歴史があるにも関わらずWindowsPhoneがこの状態で、MicrosoftはデスクトップOSでもモバイルOSでも打撃を被ることになりました。


●ハードウェア「Surface」を売るソフトウェア会社

Microsoftはキーボードやマウスも発売するハードウェアメーカーとしての側面もありますが、実際はソフトウェアメーカーです。

ソフトウェアメーカーがハードウェアを売るというのは、別段珍しいことではないのですが、それがMicrosoftだと話は別です。

Appleの製品は全てOSとハードウェアが一体という形式で発売されています。一方のGoogleでは自社でNexusシリーズを販売しています。


surface_05



これらの流れから見るとMicrosoftがSurfaceを売るのは珍しくないと思いますが、Microsoftは過去自社でWindowsが搭載されたPCを自社で販売した試しがありません。

新しいOSを開発しても、そのお披露目にはDELLなどのハードウェアベンダーの製品が使用され、自社販売のPCは過去に例がありませんでした。

これにより常にOSのみを提供し続けていたMicrosoftはIntelだけでなくHPやASUSなどのハードウェアベンダーとの間に溝ができる可能性も十分に考えられます。

しかし、そうまでしても発売したいという考えに至ったのは、やはり相当な焦りを感じているからだと考えられます。

「他社にはもう任せておけない、出だしで転ばないように最高だと思えるハードに搭載して自身が監修し価格を抑えて発売する。」そういう考え方を感じてしまいます。

Google

思えばインターネットサービスに関してはOSの成功に甘んじ、その価値を見抜けずGoogleに台頭され、自社では本当にbingのサービスを使っているのか?とユーザーに問われる始末。

現在のアプリやOSはインターネットサービスやクラウドと連携するのが当たり前の時代に、Windows 8でようやくSkydriveをOSと連動させるなど動きの鈍さに、他に便利なサービスがあるのに今更?といわれ。

正直なところWindows 8は一般に人からすれば変わりすぎて使いにくいOSなのに、ここに来てさらに過去のアプリケーションが使えないタブレットPCの発売とは無茶なのではないかと、様々な所からWindowsそしてMicrosoftは離れが進んでいます。

今後もWindowsは一定の需要は見込めると思いますが、今こそ「原点回帰」でソフトウェア事業に専念してWindows 7のようなユーザーが必要とするOSを作って欲しいところです。


●ダウンサイジングと革新と企業と

面白いことにコンピューターの世界は時代が進むほどダウンサイジングされ、より人に物理的に近づいてきていることが分かります。そのたびに革新的なハードやソフトが生み出されその企業が成長するという現象の繰り返しです。


eniac



初期の部屋を埋め尽くす真空管だらけのコンピューターが小型化され、商用に利用されるようになるとIBMの手により民間の企業向けに使われることとなり、この革命的な出来事によりIBMは巨人ともいわれるまでに成長することとなりました。


Windows 95 launch memorabilia



次の革新的な出来事は企業で使用されていた大型のコンピューターを個人でも使えるようにダウンサイジングしたパーソナルコンピューターの開発です。そこではMicrosoftがWindows OSの成功により弱小企業からOS市場を独占するまでに至りました。


iPhone 4S



そして現在、手軽に持ち運べるスマートフォンやタブレットPCの幕開けを盛大に飾ったAppleがMicrosoftを超えるまでになりました。ライバルのAndroidを有するGoogleも得意のクラウドサービスを後ろ盾に攻勢を強めています。

そして次は何でしょうか?小型化に限界がある以上人と融合する新しい形のコンピューターが次の時代の革新的な出来事となるでしょうが、そこで成功する企業はどこなのか?面白いことになりそうだと感じます。

しかし、そこにMicrosoftの存在が必要とされているのか?このままだとそこには「NO」の二文字しかないと私は感じます。

盛者必衰とはいったもので、繁栄と衰退はこの正解では常に繰り返されていることです。Appleもすでにかげりが見え始めている今、次の世界のコンピューターに一歩先に踏み出したGoogleが勝つのか?それとは別に新たな企業が進出するのか答えはまだ先のことになりそうです。

しかしその片隅で、かつての帝国と呼ばれた企業が音を立ててく崩れていく一部を「Windows RT」と「Surface」を通して垣間見たような気がします。