wzr-d1800h

アメリカで次世代無線LAN規格IEE802.11acに対応した無線LANルーターが発売されました。なんと通信速度は理論値で1300Mbps、しかもよくよく調べるとIEE802.11acの最大転送理論値は3600Mbpsと無線LANもとうとうギガビット時代へ突入してきました。

しかしIEE802.11acが登場していったい何のメリットがあるのか?一般ユーザーがIEE802.11acの無線LAN環境を手にいることにより何が変わるのか?IEE802.11acについて色々と調べてみました。

Times Square Before Broadway Closing (208 of 261)
Times Square Before Broadway Closing (208 of 261) / nickdigital


1.IEEE802.11acは電波干渉が少なく速度の低下を抑えることが可能


何気なく使っている無線LANですがすでに11b/g/nの2.4GHz帯は2つの意味で電波干渉を起こしてしまい、速度の低下を招いてしまいます。1つは電子レンジやコードレス電話などの家電が干渉を起こす原因になります、そしてもう1つはなんと同じ無線LAN同士の干渉です。

チャンネル

無線LANにはチャンネルという概念があります。2.4GHz帯では通常1から13(ものによっては14がある場合も)チャンネルが用意されていますが、このチャンネルが重複すると干渉を起こして速度が低下します。

例として家庭で使っている無線LANルーターが1チャンネルを使っている状態だったとして、すぐ隣の家が同じく1チャンネルを使っているとお互いの電波を受信できるエリアは干渉を起こして速度が低下します。

では隣の家と干渉しないように2チャンネルに無線LANルーターの設定を切り替えたら干渉は無くなると思うかもしれませんが、実はそれでも干渉してしまいます。実は2.4GHzの無線LANのチャンネルというものは隣接するチャンネルと被る周波数を使用します。

干渉する無線LAN

この画像は無線LANの状態を確認することが出来るWifi AnalyzerというAndroidアプリ(Windowsにも似たようなinSSIDerというアプリがある、無線LANの速度が遅い、繋がらないときはこれで確認してみるといい)で無線LANの電波環境を表示したものです。高さは電波強度を表し、横幅は周波数を表していますが右の赤い無線LANルーターのチャンネルは7に設定しているにも関わらず4チャンネル後半から9チャンネル前半まで使用していることが分かります。

この状態では電波干渉を起こして速度の低下を招いてしまします。

このような仕様のため2.4GHz帯を使用する無線LANルーターは完全に電波干渉をおこない環境にするためには3チャンネル分、チャンネル設定でいえば1・6・11か2・7・12もしくは3・8・13、例外として14を使えるなら1・6・11・14という4つの組み合わせが可能です。
※14チャンネルは周波数が13チャンネルよりもかなり離れているため

従って無線LANルーターが隣接している状態では3台までが干渉しない限界数となってしまいます。しかしマンションやビジネス街など無線LANルーターが隣接しがちな環境では3台以上の無線LANルーターの電波が混在することもありますし、3台以内でもチャンネルの設定が不適切だとやはり干渉を起こしてしまいます。

さらにIEEE802.11nの2.4GHz帯でチャネルボンディングを使用されると2つ分のチャンネル幅を使われるため、干渉せずに使えるチャンネル数はさらに減ってしまいます。

しかしIEEE802.11acは他の機器からの電波干渉が少ない5GHz帯を使用する規格のため電子レンジやコードレス電話などからの電波干渉を受けにくいだけでなく、また5GHz帯ではチャンネルの仕様を見直して隣接する無線LANルーター同士の電波干渉を起こさないように設計されています。

例えばIEEE802.11acに対応したバッファローの無線LANルーターのAirStation WZR-D1800Hでは、チャンネルが36・40・ 44・48・149・153・157・161・165を選べるようになっており、例えば36と40のチャンネルは隣接しても干渉しないように設計されてます。
※参考資料:Draft 802.11ac Revealed! Buffalo WZR-D1800H AirStation Reviewed - Part 1 - Features

これにより9個の無線LANルーターが同じ部屋にあったとしても全て干渉せずに通信が出来ることになります。
※このチャンネル仕様はあくまでもIEEE802.11acドラフト2.0規格のため今後変更の可能性があり

また後述のビームフォーミング制御によりたとえ重なったチャンネルを使用していても電波干渉を起こしにくいという強い電波干渉対策が取られています。

このようにIEEE802.11acを使うと無線LANルーター同士の電波による干渉を抑えることが可能になるわけです。速度がでない、親機との接続が途切れるといったことが起こりにくくなり快適な通信が可能になると思います。

Driving Cars in a Traffic Jam
Driving Cars in a Traffic Jam / epSos.de


2.IEEE802.11acは驚異的な速度で大容量ファイルも余裕の速度

今回アメリカで先駆けて販売されたAirStation WZR-D1800Hでは1300Mbpsという最大転送理論値を出せるようになっていますが、IEEE802.11ac最大転送理論値はなんと3600Mbps!怖ろしい転送速度です。

現在主流のIEEE802.11nが最大転送理論値600Mbpsですから6倍も高速化されたことになります。この速度を実現させるために使われた技術は意外なことにIEEE802.11nと同じ方法です。

マルチユーザーMIMO(Multiple Input and Multiple Output)

IEEE802.11nで高速化に寄与したのがMIMOです。Multiple Input and Multiple Outputが表しているとおり複数の出入り口、すなわちアンテナを複数同時に使い通信する技術です。IEE802.11nの無線LANルーターにはアンテナが複数有るものが存在しますがそれはこのMIMOを使うために複数のアンテナが用意されているのです。

IEEE802.11nでは最大4×4(親機4つと子機4つ)のアンテナで通信することで最大600Mbps(理論値)の転送速度を出すことができるようになりましたが、IEEE802.11acでは8×8のアンテナを使うことでさらに高速化させています。

さらにアンテナを子機に応じてどれだけのアンテナ数を使うか自動で調整し複数の端末に同時に通信することが可能となる進化したMIMO「マルチユーザーMIMO」を採用して高速化を実現しています。

このマルチユーザーMIMOは高速化以外にもチャネルボンディングによりチャンネルが被った状態でも電波干渉を抑制するビームフォーミング制御が盛り込まれており、電波干渉や通信範囲の改善が図られています。

チャネルボンディング

もう一つIEEE802.11nの高速化に寄与したのがチャネルボンディングです。このチャネルボンディングとは複数のチャンネルを束ねて使うことで高速化を狙った技術で、IEEE802.11nでは2チャンネル分の周波数幅である40MHzを束ねて通信することで高速化が実現できましたが、IEEE802.11acでは最大160MHz幅、なんと8チャンネル分を束ねて使用することが可能です。

実はIEEE802.11acで5GHz帯を使用する訳にはこのチャネルボンディングが関係しています。IEEE802.11nではチャネルボンディングを2.4GHz帯で使用すると干渉を起こさずに使えるチャンネル数はたったの2個しかありません。

このままだとチャネルボンディングで高速化するのは難しいため、周波数幅に余裕のある5GHz帯を使用することになったのです。これにより最大で8チャンネル分(160MHz幅)を束ねて使用することが可能となりました。

チャンネルを束ねてしまうと使えるチャンネル数が減ることになります。しかし前述のマルチユーザーMIMOのビームフォーミング制御でチャンネルが重なっても干渉を起こさないようになっていますので、チャネルボンディングでチャンネルを複数束ねたとしても使えるチャンネルが減らないように設計されています。
※ビームフォーミング制御はオプション扱いの模様

変調信号の多値化

これについては余にも専門過ぎて私にも深くは理解できなかったのですが、おおざっぱに言うと1回の変調(デジタルデータを電波信号に変換する処理)で送ることができる情報量増やすということでらしいです。

IEEE802.11nの変調方式は64QAMですがIEE802.11acでは256QAMに多値化され1回の変調で送ることが出来るデータの量が増えました。だたし多値化の弊害として信号の精確さを求められるため部品精度しだいでは通信距離やスループットの低下を招くようです。


このようにIEEE802.11acはIEEE802.11nの技術を正当進化させた仕様となっており、無線LANにギガビットという新しい世界をもたらしたのです。でもいったいこのような速度は何に使うのか?その点が疑問に思われるかもしれません。

IEEE802.11acではデジタルテレビの録画データを通信する場合に耐えられる転送速度を持つように設計されているいるようです。ただしデジタルテレビの録画データといっても現在主流の1080pではなく次世代規格である4K2Kを見据えての規格だそうです。

今後どうなるか分かりませんが、DLNAにより録画した4K2Kを無線LANを介して視聴するにはIEEE802.11ac環境が推奨される時代が来るのかもしれません。

[inter-planetary] communications tower
[inter-planetary] communications tower / { pranav }


3.IEEE802.11n比で1.3倍の通信範囲を実現

電波は高周波になるほど減衰すなわち距離が離れるほど信号が低下してきます、IEEE802.11acでは5GHz帯のため2.4GHz帯と比べ減衰しやすいのですが、マルチユーザーMIMOにより通信品質を改善することができたためIEEE802.11n比で1.3倍の通信範囲をカバーできるようになるようです。

IEEE802.11g/bの世代では見通し100m程度という表記がされていましたが、IEEE802.11nではさらに遠くなり見通し300mとなりました、IEEE802.11acではいったいどのような表記になるのか楽しみです。ちなみに距離と範囲は線と面積的な意味なので単純に300m×1.3倍というわけにはいかないと思います。

電波が干渉を起こしにくい設計のためIEEE802.11acでは通信範囲を広げることができたことができたようです。

Cracked (159/365)
Cracked (159/365) / LifeSupercharger


4.高速化で思わぬ落とし穴が・・・

IEEE802.11acの最大転送理論値は3600Mbpsですが、ここまで高速化するとある問題が発生してきます。それはパソコンや端末のIFの限界を超えているという問題です。

例えば多くの無線LANルーターの子機ではUSB2.0接続の子機が採用されていますが、このUSB2.0の転送速度は480MbpsですからUSB2.0が足を引っ張ってしまいます。無線LANの実効転送速度は理論値の半分ぐらいなので0距離での通信速度は1800Mbps程度と仮定してもUSB2.0が足を引っ張ってしまいます。

この速度を活かすにはPCI ExpressかUSB3.0を使用しないとその速度を活かしきれませんがPCI Expressでの接続はパソコンでは面倒ですし、USB3.0もまだUSB2.0ほど普及しているとはいえません。

これらの問題があるためAirStation WZR-D1800Hでは子機としてIEEE802.11acに対応したイーサネットコンバーターWLI-H4-D1300を同時に用意してIFがボトルネックとならないようにしています。

高速な転送速度を生かし切るにはUSB3.0の普及や機種の更新が必要になるわけですが、それらと平行してIEE802.11acも普及していくことになるでしょう。

ちなみにスマートフォンやタブレットではチップ内部のPCI ExpressバスにIEEE802.11acのNICを接続するかたちで製造されるでしょうからIEEE802.11acに対応した機種へ買い換えとなります。

Sales Bags
Sales Bags / I See Modern Britain


5.IEEE802.11ac対応機器が日本で発売されるのはいつ頃なのか?

IEEE802.11acの当面の問題は電波法になります、ドラフト2.0とはいえすでに親機はできあがりIEEE802.11acに対応したチップも製造されている現在、IEEE802.11acに対応した製品が出てくるのもそう遠くない時期になると思います。

しかしその前に電波法の改正が必要という問題が立ちはだかっています。電波法の管轄である総務省がIEEE802.11acに対して認可を出さないといくら製品があったとしても日本では使うことができません。そのため日本でのIEEE802.11ac対応製品の登場は2013年になると予想されています。

しかし認可が下りても問題はまだあります。日本では過去にIEEE802.11aを認可する際にそのままでは認可が下りずIEEE802.11aを日本独自に修正したIEEE802.11a(チャンネルタイプJ52)という独自規格になってしまいました。

現在では国際規格と同じIEEE802.11a(チャンネルタイプW52・W53・W56)になりましたが、2005年と製品がでてから3年も経過した後のことでした。その後2007年に再び改正が入りチャンネル数が増えるなど混沌とした規格変更があり、IEEE802.11a対応の製品を製造するメーカーは法改正のたびに対応に追われました。

もっとも困ったのはユーザーです、法改正前のIEEE802.11aの製品と法改正後のIEEE802.11aの機器では通信ができず、ファームウェアでアップグレードしても使えるチャンネルは4チャンネルしかないという状態になりました。ファームウェアのアップグレードが簡単にできればいいものの、アップグレードにはそれなりに知識が必要ですから未だに古い規格が使われていることがあります。

そのような状態のため新しい製品でありながらIEEE802.11aをあえて採用しない製品が数多く存在します。IEEE802.11acも同じ轍を踏む可能性があるのです。

しかしまだIEEE802.11acには問題が残っています。それはまだ規格がドラフト2.0の状態で正式な規格として制定されていない状態にある問題です。

現在のドラフト2.0は今後正式な規格として制定される見通しのようですが、ドラフト2.0が否定される可能性もあります。実際ドラフト1.0では待ったがかかり否定されドラフト2.0を採用するという経緯があったようです。

ただしIEEE802.11nではスムーズに移行したという実績がありますので、余計な心配はしなくてもいいのかもしれません。


まとめ

IEEE802.11acの最大のメリットは電波干渉による速度の低下や通信の切断を解決できる点です。マンションや住宅地など無線LANの電波が重なりあう環境でも快適な通信品質を期待できるようになるでしょう。

また通信速度が向上したためNASの活用の幅が広がったり、高画質な動画もスムーズにネットワーク越しに再生することが可能となります。

今後期待のIEEE802.11acですが日本でIEEE802.11ac対応商品が発売された際は真っ先に購入したいと思います。